【伝統的工芸品のご紹介】~笠間焼(茨城県)~
2022.12.5 伝統工芸品について
【名称】
笠間焼(かさまやき)
【笠間焼の産地】
茨城県笠間市周辺
【笠間焼とは?】
茨城県笠間市を中心とした地域で製作されている陶磁器のこと。
笠間稲荷神社(京都市・伏見稲荷大社、愛知県豊川市・豊川稲荷と並んで、日本三大稲荷のひとつ)の
参拝土産として、古来より人気でした。
現在、笠間焼は幅広い用途で使われています。
湯呑みや急須などの日用品はもちろん、花器などのインテリア用品、斬新なデザインのオブジェなどにも
用いられるようになりました。
1992年、伝統的工芸品に指定されています。
【笠間焼の特徴】
笠間焼の特徴として、「丈夫である」「汚れに強い」ことが挙げられます。
これは、蛙目粘土(がいろめねんど)という、
細かい粒子でありながら粘りのある土を原料として使っているからです。
丈夫で汚れに強いので、水瓶や土瓶、食器、土鍋などの台所用品をはじめとして、日常生活で幅広く使われています。
笠間焼で主に使われている蛙目粘土は、鉄分が多く含まれているので、焼き上げた後に素地が褐色に変化します。
よって、華美な絵付けではなく、「釉薬(ゆうやく)」の「流し掛け」「重ね描き」といった
装飾技法を用いられることが多いです。
笠間焼の産地では、伝統を重んじつつも、作家たちの個性をどんどん表現していい自由な風土が醸成されています。
代表的なデザインが存在せず、既存の型にとらわれることのない、作家個々人の独自な作風も大きな特徴です。
こうした独自の風土にさまざまな装飾技法が加わりながら、笠間焼は進化し続けています。
※釉薬 → ガラス質の粉末。素焼きの陶磁器の表面に光沢を出したり、液体がしみ込むことを防ぐために用いられる。
【笠間焼の歴史】
関東最古と言われている笠間焼が始まったのは、江戸時代。
信楽焼の陶工・長右衛門が、現在の笠間市である箱田村の名主・久野半右衛門道延に
陶器製作の指導を行ったのがキッカケです。
笠間藩が厚く保護してくれた影響もあり、笠間焼は発展していきました。
最初、笠間焼で主に作られていたのは、すり鉢や瓶、甕(かめ)です。
しかし、丈夫で壊れにくい特徴を活かし、日用品が数多く生産されるようになります。
その結果、作家たちの人数も大幅に増加していきました。
時は進み、戦後。
新しい風を巻き起こしたいと考える全国各地の作家たちが、笠間地方に集まってきます。
茨城県が陶工養成のため、窯業指導所を設立したことも大きかったのでしょう。
人々の生活において西洋化が進み、プラスチック製品が主流になる時代においても、
笠間焼の窯元数は増加していきました。
現在においては、安く手に入れることのできる実用的な日用品をはじめ、
芸術的なオブジェまで幅広い分野で笠間焼が製作されています。
江戸時代からの長い歴史がある笠間焼ですが、古いしきたりなどがほとんど存在しません。
受け継ぐべき伝統はしっかり残しつつ、前例のない革新的なことにも挑み続けています。
作家たちが切磋琢磨することで新しい技法が生まれていますし、
これからも新しい陶芸の世界を切り拓いていくでしょう。
【笠間焼の製作工程】
①土の採掘
まず、土の掘り出しを行います。
主に原料として使われるのは、「蛙目粘土」「笠間粘土」などです。
笠間地域で取れる土の特徴として、花崗岩質で鉄分を多く含んでいることが挙げられます。
②粘土づくり
掘り出した土に水を混ぜて練り、粘土を作る作業です。
水に土を入れたらよくかき混ぜて、石や砂などの不純物を取り除き、
粒子の細かい土だけを採取する「水簸(すいひ)」という手法で行います。
その他、機械を用いて粘土づくりを行う場合もあります。
この粘土づくりの出来によって後の工程に影響が出てしまうので、重要な作業です。
③菊もみ
「菊もみ」というのは、土から空気を抜いて全体を均質にしていく作業です。
菊の花びらのように練っていくので、「菊もみ」と名付けられました。
④成形
成形方法は、主に「ろくろ成形」「手ひねり成形」「型起し成形」の3つです。
製作するものによって、適切な方法を選択していきます。
中でも、ろくろ成形は「花形的工程」と言われていますが、見た目以上にデリケートで難しい作業です。
完全に習得するには、10年間の修業が必要であるとさえ言われています。
⑤素地の加飾
素地に加飾して、デザインをしていく作業です。
この時まだ素地は柔らかいので、竹などを使って模様を彫っていきます。
その他、「泥掛け」「はけ目」といった方法もあります。
⑥乾燥
主な乾燥方法は、「天日干し」「日陰での乾燥」「熱風」です。
乾き具合にムラがあるとヒビ割れの原因になってしまうので、注意して行う必要があります。
⑦素焼き
しっかり乾燥させたら、800℃ほどの窯の中に入れて10~15時間かけて焼成します。
素焼きしたものをまた土に戻すことはできないので、丁寧に確認しつつ窯に詰めていくことが大切です。
⑧下絵付け
素焼きが完了したものに、「絵具」「鉄」「コバルト」などを用いて下絵付けを行います。
釉薬によって色調が変化してしまう場合があるので、全体的なバランスを見ながら色の濃淡などを調整していきます。
⑨釉薬をかける
下絵付けが終わったら、上から釉薬をかけます。
釉薬は、原料を変化させることでさまざまな種類のものを作ることができます。
例えば、以下のような種類があります。
・透明釉
・青磁釉
・飴釉
・マット釉
・乳白釉 など
こうした釉薬を、作家たちは作るものによって使い分けていきます。
釉薬をかける方法もいくつかあり、代表的なのは「浸し掛け」や「流し掛け」です。
どの方法でも、手作業で行うのが基本です。
⑩本焼き
本焼きを行う前に、キズが付いてないかなどのチェックをしなければいけません。
問題なかったものを、順に窯詰していきます。
1250~1300℃の温度で約20時間かけて、慎重かつじっくりと本焼きしていきます。
⑪仕上げ・検査
焼き上がったら、窯出ししたものを一つずつ仕上げていきます。
仕上げ作業としては、底を滑らかにすることなどがあります。
最後にヒビ割れチェックなどの検査が完了して、完成品の出来上がりです。
【笠間焼と益子焼の関係】
栃木県益子市では「益子焼」が有名です。
そして益子焼は、笠間焼の製法を受け継いでいるのです。
こうした背景から、「兄弟産地」と言われています。
2つの産地は、2011年に起きた東日本大震災によって、工房や窯が倒壊してしまうなど大打撃を受けてしまいます。
この震災をきっかけに、笠間と益子は連携し、お互いの復興を目指してさまざまな取り組みを始めました。
この取り組みは、「かさましこ」と呼ばれています。
ちなみに「かさましこ」は、「かさま」と「ましこ」を組み合わせて作られた言葉です。
「かさましこ」は2020年、文化庁によって日本遺産に認定されました。