【伝統的工芸品のご紹介】~高岡漆器(富山県)~
2022.12.7 伝統工芸品について
【名称】
高岡漆器(たかおかしっき)
※漆器 → 木や紙などに漆を塗り重ねて作られる工芸品のこと
【高岡漆器の産地】
富山県高岡市
【高岡漆器とは?】
富山県高岡市で製作されている漆器のこと。
1975年9月、伝統的工芸品に指定されました。
【高岡漆器の特徴】
高岡漆器には、「青貝塗」「勇助塗」「彫刻塗」という3つの技法があります。
これらから生み出される幅広い作風を楽しむことができるのが、高岡漆器の特徴です。
・青貝塗
「青貝」とは、「ヤコウガイ」「アワビ」などの貝殻の光沢がある箇所を薄く削りながら作ったものです。
青貝を使って三角形やひし形などの細片を作り、これらを組み合わせて花、鳥、山、水など
さまざまなものを表現していきます。
貝を細工して行う装飾技法を、「螺鈿(らでん)」と言います。
一般的には、0.3mmほどの厚さの貝を使うことが多いです。
しかし、高岡漆器では、その1/3の厚さしかない約0.1mmの貝も使っています。
これだけ薄い貝を使うのは、高岡漆器だけの独自の技法です。
薄い貝を使うことで、下地の漆の色が透けて映りますし、貝が青く光って見えるのです。
・勇助塗
江戸時代の終わりに、漆芸家・石井勇助によって生み出された技法のこと。
石井は中国・明朝の漆器に憧れ続け、研究を重ねました。
まず、唐風のデザインに花鳥、山水、人などを錆漆(さびうるし)で描いていきます。
その後、箔絵、玉石、青貝を施していくなど、さまざまな技術を駆使する技法です。
・彫刻塗
木彫りに漆を幾重にも重ねて塗った後、雷紋や亀甲といった地紋の上に、孔雀、草花、鳥獣などを掘り出しています。
立体感があること、そして艶の独特さが特徴です。
【高岡漆器の歴史】
時は、江戸時代が始まったばかりの1609年。
加賀藩の初代藩主・前田利長が高岡城を築城したことから、
タンス、料理を乗せる膳などの生活用品を製作させたのが始まりであると伝えられています。
高岡城は1614年に廃城になってしまいますが、その後、商工業の町へと変化しました。
朱漆を何回も塗り重ね、その上に文様を彫刻した「堆朱(ついしゅ)」。
黒漆を幾重にも塗り重ねて、文様を彫り込んだ「堆朱(ついこく)」。
これらの技法が中国から伝えられたことにより、
現在まで受け継がれている「彫刻彫」「螺鈿」「錆絵」などの技術が誕生しました。
ちなみに、彫刻彫は「高岡漆器の元祖」とも言われる辻丹甫(つじ たんぽ)によって考案された技法です。
毎年5月1日に開催される高岡御車山祭(みくるやままつり)で、街の中を練り歩く絢爛豪華な高岡御車山にも、
辻丹甫の技が使われています。
1850年、石井勇助によって「勇助塗」が生み出され、明治時代に入ってから盛んになりました。
最近では、ガラスなどの色々な素材を塗りに活用した「変り塗」が新たに誕生し、
インテリア業界など異分野の関係者に注目を浴びています。
【高岡漆器の製作工程】
*材料
「ケヤキ」「トチノキ」「カツラ」などの木材
①木地作り
木地作りとは、木材を十分に乾燥させた後、削り加工することです。
高岡漆器は、下記4種類の木地によって製作されます。
・くり木地
木材をカンナで削ったり、ノミで彫ったりして作った木地
・挽物木地(ひきものきじ)
木材をろくろで削って作った木地
・曲物木地(まげものきじ)
薄く切った板を曲げて輪のような形にし、両端を貼り合わせた木地
・指物木地(さしものきじ)
板を何枚か組み合わせることで作った木地
②布着せ
作成した木地に傷などがあった場合、表面をなめらかにします。
その後、壊れやすそうな箇所を補強するため布を貼ることを、「布着せ」と言います。
布を貼った部分の布目が目立たなくなるように、目止めの粉を均一にムラなく塗っていきます。
③中塗り
目止めの粉を塗った箇所に、漆を塗ります。
その後乾燥させてから、表面をなめらかにするために研ぎます。
④図面作成
青貝塗の場合、この後に行う貼り付けなどを考慮しつつ、漆器の図面を作成します。
完成後をイメージする想像力や、どう図面に落とすかの表現力などが必要です。
なお、「青貝塗」の材料には、以下の貝殻が使われることが多いです。
・アワビ
・ヤコウガイ
・チョウガイ
・クジャクガイ
⑤貝裁ち
完成したデザインを基にして、貝を切り抜いていく作業です。
・直線的なもの → 刃物を用いて切り分けていく
・小さなもの → 彫刻刀やノミを用いて、刃を向こう側に押し出しながら切っていく
・曲線 → 針を用いて切り抜いていく
曲線は鳥や動物の形に切り抜いていくことが多く、繊細な作業なので、職人たちの卓越した技を要します。
⑥青貝付け
まず、デザインを木地に写します。
その後、青貝を貼る箇所に漆を薄めに塗っていきます。
漆を塗るのは、接着剤の代わりとして使うためです。
青貝を貼り付けたら、この工程は完了です。
⑦毛彫り
漆をしっかり乾燥させたら、例えば「花の芯」や「人の顔」などの細かくて繊細な部分を、
極細の針を用いて描きます。
⑧小中塗り
今度は、漆を木地全体に塗ります。
一度乾燥させてから、青貝を貼った箇所の漆は、ノミなどを用いながら剥がしていきます。
⑨上塗り
あらためて、全体に漆を塗ります。
乾燥させた後、「静岡炭 → 呂色炭(ろいろずみ)」の順番で磨きます。
最後、菜種油で砥の粉を練ったもので作品全体を丁寧に磨き上げます。
⑩摺漆(すりうるし)
生漆(きうるし)を、少量ずつ薄く摺りこむように塗っていきます。
漆を乾燥させた後、菜種油に角粉を混ぜたものを使って、ツヤが出るように手で丁寧に磨きます。
「生漆塗り → 乾かす → 磨く」という一連の作業を3~4回繰り返したら、完成です。