【伝統的工芸品のご紹介】~信楽焼(滋賀県)~
2022.12.8 伝統工芸品について
【名称】
信楽焼(しがらきやき)
【信楽焼の産地】
滋賀県甲賀市信楽町
【信楽焼とは?】
滋賀県甲賀市信楽町周辺で製作されている陶磁器のこと。
陶土は1つに限定することなく、「蛙目(がいろめ)」「実土(みづち)」「木節(きぶし)」といった
粘土と原料を混ぜ合わせて練っていきます。
こうして出来た陶土はコシが出るので、厚さたっぷりな焼き物、サイズの大きな焼き物でも製作することが可能です。
信楽焼は茶陶器としても人気ですが、焼き後の焦げ部分のさびた感じに趣があるとして、お茶を愛する方々に珍重されています。
1951年に昭和天皇が信楽に行幸され、その際にたぬきの置物たちが日の丸の旗を振ってお出迎えしたことで、全国にその存在を知られるようになりました。
また、昭和天皇自身が幼少期からたぬきの置物を収集されていたこともあり、歌を詠まれたエピソードも有名です。
1975年9月、伝統的工芸品に指定されました。
【信楽焼の特徴】
信楽焼の最大の特徴は、「荒めの土を使っている」「耐火性の高さ」の2つです。
土には珪石や長石などが多く含まれているために肌が荒く、質が高いことでも名を馳せています。
また、白味がある信楽の土質の中で引き立つ火色は、「窯あじ」と呼ばれています。
*火色
窯あじは、焼成時の温度、焚き方などによって変わってきます。
この窯あじのお陰もあり、信楽焼らしい繊細で温かな色が付くのです。
作品を焼く時に窯の中に入れますが、燃え尽きた薪は灰になります。
灰に埋まっている焼き物の裾の箇所が黒褐色になり、それを「焦げ」と言います。
*焦げ
焦げや釉薬を付けることにより、信楽焼は全体的に柔らかい雰囲気を醸し出すのです。
なお、焦げは「灰かぶり」と呼ばれることもあります。
【信楽焼の歴史】
信楽焼は、奈良時代中頃に聖武天皇が紫香楽宮を造営する際に、屋根瓦を焼いたことが始まりではないかと言われています。
今から1300年近くも前のことなので、信楽焼の歴史がいかに古いか、わかるのではないでしょうか。
鎌倉時代には、水がめが主に作られていました。
しかし、安土桃山時代になって茶文化が発展すると、茶道具の生産が盛んになります。
名品と呼ばれる茶器なども誕生し、当時から感じられている信楽焼独特の「わび」「さび」が、今も伝承され続けています。
江戸時代に入ると、日々の生活に用いられる器(土鍋、徳利など)が生産されるようになり、商業用品としても発達しました。
大正時代以降は火鉢が数多く製作され、明治時代になると、国内で販売されている火鉢の約8割が信楽焼で占められるまでになったのです。
現在でも、信楽焼独特の土の味わいや温かさなどが、多くの人々に愛され続けています。
そして茶器や食器などの生活用品だけでなく、花器や置物、住宅や店舗で使用されるタイルなどのインテリア、灯篭などの庭園用品としても人気です。
なお、信楽焼は日本六古窯の1つに選ばれています。
日本六古窯とは、中世から現在に至るまで継続して生産されている陶磁器窯のうち、代表的な6つの生産地のことです。
信楽以外には、越前(福井県)・瀬戸(愛知県)・常滑(愛知県)・丹波(兵庫県)・備前(岡山県)があります。
【信楽焼の製作工程】
①成形
信楽焼は、古琵琶湖層で採れた土を使って製作されます。
古琵琶湖層で採れた土は、400万年も前から堆積した粘土で、耐火度の高い粘土鉱物が多く含まれているのが特徴です。
この土を使っているからこそ、温かみのある火色を表現することができ、自然な感じの肌触りが生まれています。
土を掘り出したら、陶土作りを行います。
先に紹介した「蛙目(がいろめ)」「実土(みづち)」「木節(きぶし)」といった複数の土や原料などを砕き、水を加えたらしっかり練ります。
その後、種類によっては土練り機を使ってさらに練っていきます。
こうして出来上がった陶土で、製作する器に成形します。
成形作業と一口に言っても、陶土の出来上がり具合や、その時々の気温や湿度によって変わってきます。
まさに、陶工たちの腕の見せ所と言えるでしょう。
なお、陶土は焼き上げると締まるので、成形時は完成後のサイズよりも大きめに作ります。
成形は主にろくろを使いますが、ろくろでは成形が難しい形(楕円など)にする場合は、たたら板を用いることもあります。
②模様付け
成形した器に模様を入れたり、削ったりして加工します。
代表的な模様に、「松皮模様(=松の皮に似せて付けられた模様)」
「印花模様(=小さな花を入れて作られた模様)」などがあります。
③絵付け
絵が必要な作品の場合、職人が筆を用いて絵を描いていきます。
装飾する際によく用いられる材料は、「鬼板(おにいた)」「呉須(ごす)」などです。
*鬼板
*呉須
④釉かけ
絵付け後に素焼きしたら、筆やひしゃくを用いて、素地に釉かけ(釉薬をかけること)を行います。
釉薬は、石灰石や酸化鉄、長石などを調合して作ります。
釉かけを行うことで、陶磁器の表面がガラス質になります。
釉かけしてから焼くと、釉薬が溶けることで煌びやかな色に変化していきます。
どんな釉薬を使うかによってさまざまな色を表現できるので、
窯元や職人たちの技術・個性を垣間見ることが可能です。
釉かけが薄すぎると、色が変化せずに素地のままになってしまうことがあります。
また、逆に濃すぎると焼いても溶けないので、思い通りのキレイな色が出てこない場合も。
長年の経験や勘が必要となる、職人たちの卓越した技術が必要となる作業です。
⑤本焼き
作品たちを窯の中に並べたら、温度を1200℃以上にして本焼きします。
伝統的な方法の1つが、登り窯です。
薪を使って焼き上げるので、薪の灰と粘土が反応することでガラス化し、信楽焼独特の肌合いが生まれました。
これは付着した灰が溶けてできる自然釉で、「ビードロ釉」と言われています。
現在は、登り窯の他に「ガス窯」「電気窯」を使用している窯元もあります。
火加減は安定しますが、気温や湿度などの環境によっても出来上がり具合は変わるため、窯を開けて見てみるまで作品の状態はわかりません。
このように、「時代に合わせた技術」と「過去からの伝統」を合わせながら、焼成作業は行われます。
24時間以上かけて焼いた後、作品を窯から出します。
窯を出す時でも温度は約200℃あるので、火傷などの大けがをしないように注意が必要な作業です。
取り出した作品は、口や底の部分を一つずつ丁寧に研磨して仕上げたら完成です。