【伝統的工芸品のご紹介】~駿河雛人形(静岡県)~

【伝統的工芸品のご紹介】~駿河雛人形(静岡県)~

【名称】

駿河雛人形(するがひなにんぎょう)

 

 

【駿河雛人形の産地】

静岡県静岡市+周辺の地域

 

 

【駿河雛人形とは?】

静岡県静岡市を中心とした地域で制作されている人形のこと。

雛人形の胴体は、全国の生産量のうち70%ほどが駿河製です。

 

静岡県中部地区では、明治時代まで、初節句を迎える子供には男女問わず人形を贈っていました。

その後、他県同様に女の子に内裏雛を贈る風習が加わり、男の子には雛天神を贈るようになったのです。

 

1994年4月、伝統的工芸品に指定されました。

 

 

【駿河雛人形の特徴】

最大の特徴は、人形のサイズが大きいことです。

大きさの理由は、人形の胴体に使われている稲わらが太いから。

静岡市を中心とした地域一帯では、米の生産が活発に行われていました。

そのため、稲わらが手に入りやすかったのではないか…と推測されています。

 

人形に着せる衣装が、上半身と下半身で別々に制作されることも特徴の一つです。

別制作にすることで、衣装全体にボリュームを持たせることができ、

上下ともに着せた時により豪華な雰囲気に見えます。

京都製の雛人形など、一般的には上下一体で作られることが多いです。

一方、駿河製は上下別々に制作できるので量産化が可能になり、

現在では人形の胴体部分の全国シェアで約70%を占めています。

 

雛人形を作る工程の中で「一番技術を要する」と言われているのが、人形の両手を曲げていく作業(降り付け)です。

両手の曲がり具合によって「どの職人さんによる振り付けであるか」がわかってしまうほど、

作る人の個性が強く表れます。

 

 

【駿河雛人形の歴史】

駿河雛人形の起源は、2つの天神人形(菅原道真をかたどった人形)にあると伝えられています。

一つ目は、菅原道真を信仰の象徴として表現するために制作された「煉天神」です。

この人形は、桐の木片を練って固めた後、筆によって色付けして作られます。

二つ目は、「衣装着雛天神(=衣装を着せた天神)」です

現存する最古のものは、江戸時代末期である1853年に作られたと言われています。

 

同じく江戸時代に、京や江戸といった雛人形で有名な地域の職人たちが、駿河に集まりました。

それぞれ「京雛」「江戸雛」の制作で用いる技法やデザインを持っていましたが、

駿河の職人たちの独自技術と合わさることで、より高品質な雛人形が次々誕生していきます。

 

例えば、以下のような人形が「節句人形」として作られるようになりました。

・立天神人形

・立雛

・親王雛(お殿様、お姫様がペアになっている雛人形

・高砂人形(老夫婦の人形で、縁起もの)

 

また、江戸時代後半には、以下の人形が制作されるようになります。

・立雛天神

・内裏雛(天皇、皇后の姿に似せて作られた男女ペアの雛人形)

・五月人形(端午の節句に飾るお守り)

 

その後、三人官女や五人囃子なども加わり、総勢15人の華やかで豪華な段飾りが登場しました。

 

 

【駿河雛人形の製作工程】

①わら胴寸法切り

「わら胴」は人形の胴体部分になり、駿河雛人形独特のものです。

稲わらをがっちり固く巻いた後、上から紙でさらに巻きます。

巻いたものを乾燥させ、人形の大きさごとに切り分けたら完了です。

 

②削り

例えば、胸の部分に少し角度を付けるなど、人の形に近づけるように包丁で木を削り、形を整えていきます。

 

③胴組(どうぐみ)

木毛(もくめん=丸太を裁断して作られる糸状のもの。ウッドウールとも呼ばれる。)を

紙で巻き、人形の腕を作ります。

また、「膝」「円座に座っている足」も一緒に作ります。

完成後、針金を使ってわら胴に取り付けたら作業完了です。

 

④着せ付け

参照元:静岡市

 

駿河雛人形が身に付ける装束は、「西陣織」と「桐生織」で作られます。

「西の西陣・東の桐生」と言われており、どちらも高級織物として有名です。

雛人形は種類によって装束が異なるので、各々に合った柄、色、文様などで選択していきます。

 

和紙や洋紙で紙型を作ったら、ノリを付けて生地の裏側に貼り付けます。

この時「袋張り」で行いますが、主な理由は以下の通りです。

・仕上がった時に、よりしなやかになる

・縫い合わせやすい

・完成した装束を着せ付ける時に扱いやすい

 

ノリが乾燥したら、生地を型紙にそって裁断します。

生地は手やミシンで縫い上げたら、「にかわ」という接着剤を使い、人形に着せ付けていきます。

 

着せ付けていく装束の種類は、以下の通りです。

 

≪お内裏様(殿)≫

・束帯(そくたい=公家男性の正装)

・袴

・裾 など

 

≪お雛様(姫)≫

・単衣(ひとえ=裏地のない着物)

・五衣(いつぎぬ=女性が着る装束の袿のうち、五枚重ね袿の衣のこと)

・打衣(うちぎぬ=五衣の上に着用する)

・表衣(おもてぎぬ=五衣と打衣の上に着用する)

・唐衣(からぎぬ=十二単の一番上に着る、丈の短い衣)

・裳(も=腰から下にまとう衣)

・引腰(ひきごし=裳の腰の紐の余りの部分)

・袴

 

単衣は2~3枚重ねて着るのが一般的だったので、全て合わせて十二単と呼ばれているのです。

 

⑤腕折り(降り付け)

先述の通り、振り付けとは人形の両手を曲げていく作業です。

胴組の工程でわら胴に取り付けた腕はまっすぐなので、曲げることで形を整えていきます。

実は曲がり具合で人形全体の印象が決まるので、とても重要な作業です。

お内裏様は男性、お雛様は女性なので、それぞれの性別に合った雰囲気に見えなければいけません。

また、針金は曲げ直すことができないので、失敗が許されない工程です。

まさに、職人たちの熟練した技術や個性の見せ所であり、違いが出やすいところでもあります。

 

⑥頭付け

頭付けの工程で大切なのは、主に2つあります。

・グラつくことがないように、しっかり取り付けること

・どのような目線の位置にするか決めること

 

目線は大きく2種類あり、「まっすぐな目線」「少し下を向く目線」です。

下を向く視線というのは、座りながら雛人形を眺める人たちと目が合う感じを想像していただければ、

イメージしやすいのではないでしょうか。

お内裏様やお雛様はもちろん、五人囃子や三人官女なども、

役割に合わせて目線をどの方向に向けるか決めていきます。

 

⑦完成

最後に、細かい衣装道具を付けたら、駿河雛人形の完成です。

 

≪お内裏様≫

・冠

・纓(えい=冠の後ろに付ける、羽のような装飾具)

・巾子(こじ=冠の頂上後部で、突き出ている部分)

・笄(こうがい=冠を髪に固定するためのもの)

・笏(しゃく=右手に持つ、細長い板)

・飾剣(かざたち=儀礼用の刀剣)

・平緒(ひらお=刀剣を身に付けるための帯)

 

≪お雛様≫

・釵子(さいし=髪上げの際に使用したかんざし)

・額櫛(ひたいぐし=額の上にさすクシ)

・檜扇(ひおうぎ=宮中で用いられた木製の扇)

 

 

 

 

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