【伝統的工芸品のご紹介】~尾張七宝(愛知県)~
2023.01.10 伝統工芸品について
【名称】
尾張七宝(おわりしっぽう)
【尾張七宝の産地】
愛知県あま市、名古屋市
【尾張七宝とは?】
愛知県あま市や名古屋市周辺で製作されている焼き物。
華やかな花鳥風月や風景などの図柄が描かれており、仏教において貴重とされている七種の宝(金・銀・瑠璃・メノウ・シャコ・真珠・マイエ)を散りばめているような美しさであることから「七宝」と呼ばれています。
花瓶や皿などが代表的ですが、現在ではアクセサリーなども人気です。
1995年4月、伝統的工芸品に指定されました。
【尾張七宝の特徴】
銀や銅といった金属素地を用いており、その表面に色が付いたガラス質の釉薬を施すことで、「花鳥風月などの華麗な図柄のあしらい」「きらびやかな色彩」が特徴です。
また、下記に挙げている通り、さまざまな技法が使われています。
いくつかの技法を融合させることで、新しい技術も生み出されています。
・有線七宝
七宝の中で基本となる技法。
金属素地に下絵を描いた後、その絵に沿って金属線を立てて輪郭を作ります。
釉薬をかけてから焼成し、最後に研磨します。
・無線七宝
「無線」とある通り、最初から金属線を用いない技法。
もしくは、焼き上げる前に金属線を取りのぞきます。
無線七宝が考案されたことにより、ぼかしの技術が表現できるようになりました。
・盛上七宝
後述する研磨の工程において、立体的に見せるために釉薬を盛ってから焼成します。
・省胎七宝
完成後、まるでガラス製品のように見せる技法。
素地を銅にし、銀線を立てた後に透明釉をかけて焼成します。
研磨後、酸で腐食させることで、銅素地を取りのぞく方法です。
職人たちがこれら技法を駆使して製作した尾張七宝は、独特の華麗さによって多くの人々を魅了し続けています。
【尾張七宝の歴史】
七宝焼の起源は、紀元前3000年頃のエジプトであると言われています。
その後、欧州や中国大陸から伝わりました。
現存している最古の七宝焼は、奈良の古墳から出土した棺の飾り金具です。
1830~1844年頃、オランダ船によって七宝焼の皿が輸入されました。
尾張国の藩士・梶常吉は、その皿を手がかりにして七宝焼の製法を発見し、改良を加えていったのです。
梶常吉は七宝焼の製法を確立させ、農家の次男や三男によって産業として根付いていきます。
次第に製造方法が周辺に広がっていき、現在の愛知県尾張地方で製造される七宝のことを「尾張七宝」と呼ぶようになったのです。
なお、尾張七宝は、完成品に作者の名前を記しません。
始まりが村を支える産業であったこと、職人による芸術作品ではなかったことが関係しているのかもしれません。
1867年に開催されたパリ万博で、日本の七宝焼が初めて出品されました。
高い評価を得るとともに、世界中にその名が知れ渡るようになります。
第二次世界大戦中、高級織物や装飾品といった贅沢品の製造や販売を禁じられました。
尾張七宝も製造を中止させられ、初めて存続の危機に陥ってしまいます。
しかし、1943年から愛知県知事を務めた吉野信次が、「地域にとって大切な産業だから」と、細々とではありますが七宝焼を焼かせたのです。
その結果、尾張七宝は復活を遂げることができました。
【尾張七宝の製作工程】
完成に至るまでの各工程は、どれも専門的な技術を要します。
分業制になっており、専門の職人によって作業が行われるのが一般的です。
①素地づくり
素地には、主に銅板が用いられます。
銅板を成形する方法は、下記2つのどちらかです。
・手絞り
職人の手によって、木づちなどで銅板を叩きながら成形する方法。
・機械絞り
旋盤(またはプレス機)、鉄の棒を用いて成形していく方法。
②下絵付け
「墨で直接描く」「全体に白い釉薬をかけ、下焼きしてから描く」という2つの方法のどちらかを用いて、素地づくりを施した表面に下絵を描く工程です。
これらに加えて最近は、絵柄が彫られたプラスチックの型を用いた新しい技法も使われています。
手作業と比較してスピードも時間も短縮できるので、作業の効率化が進んでいます。
③線付け
描いた下絵に沿って、ノリを使って銀線を植え付けていく工程です。
ノリは「白きゅう」といって、蘭の球根を乾燥させた後、すり潰して作ったものが用いられます。
④釉薬さし
銀線が植え付けられた線と線の間に、釉薬をかけていく工程です。
華美な図柄が特徴的な尾張七宝では、さまざまな配色に対応するため、数十種類にも及ぶ釉薬が用意されます。
他では見られない色彩を出すため、窯元は釉薬を作る際の調合具合に工夫を凝らしています。
配合具合や技術によって全く異なる色合いになるため、窯元や職人たちの個性を楽しむことができるでしょう。
「線付け」と「釉薬さし」は、職人によって手作業で行われています。
近代化が進んでいる現代でも、2つの工程を機械化することが困難だからです。
⑤焼成
700~800℃で、10~15分かけて電気窯で焼成する工程です。
焼くことで釉薬が溶け、金属線と高低差が生じてしまうので、同じ高さになるまで繰り返し行います。
なお、焼成する温度や時間は、「製品の大きさ・形」「使用した釉薬」などによって異なります。
⑥研磨
焼成時に金属線と釉薬部分の高低差をなくしますが、完全な平らではありません。
よって、凹凸なく滑らかにするために必要なのが、研磨作業です。
まずは砥石で磨き、その後、酸化スズなどを用いて光沢を出していきます。
研磨を続けることで、図柄の輪郭となる金属線の部分が見えるようになってくるのです。
場合によっては、工業用ダイヤモンドによって研磨することもあります。
⑦覆輪付け
ここまでの作業で未加工の部分に、銀メッキなどの覆輪を付ける工程です。