【伝統的工芸品のご紹介】~播州そろばん(兵庫県)~
2023.01.12 伝統工芸品について
【名称】
播州そろばん
【播州そろばんの産地】
兵庫県小野市
(兵庫県南部を「播州」と呼んでいる)
【播州そろばんとは?】
播州(兵庫県南部)にある小野市を中心とした地域で作られているそろばん。
温暖少雨な気候に恵まれて、水田農業地帯が広がっている小野市では、農業を行わない時期にそろばん作りが積極的に行われてきました。
播州そろばんの源流は、そろばん発祥の地と言われている「大津そろばん」であると言われています。
滋賀県の大津は、日本三大商人のひとつである「近江商人」で古くから賑わっており、交通の要でもありました。
また、大阪や京都といった商業が発展している地域から近かったこともあり、元からそろばんの生産が盛んだったのです。
播州そろばんは、使いやすさ、珠はじきの良さはもちろんのこと、美術工芸品としての美しさも兼ね備えています。
1976年6月、伝統的工芸品に指定されました。
【播州そろばんの特徴】
最大の特徴は、分業化されていることです。
そろばんはさまざまな部品から構成されていますが、部品ごとの製作において分業化されています。
技術の高い職人たちによって作られた高品質なそろばんであること、そして生産量が多いことから、兵庫県の代表的な伝統工芸品になりました。
種類も豊富で、学校の授業や商売を行っている人たちに使われる一般的なものだけでなく、色とりどりのカラー展開、独特な形をしたものなどが数多く開発されています。
コンピューターや計算機の普及によって、そろばんの需要は減り続けています。
しかし、計算力だけでなく集中力なども身に付くので、幼児教育のひとつとしてそろばん教室は根強い人気があります。
脳トレとして大人へのアプローチも行うなど、さらなる需要発掘が今後も続いていくでしょう。
播州そろばんは、そろばん生産の全国シェア70%を占めています。
【播州そろばんの歴史】
そろばんが日本に入ってきたのは、室町時代の末期。
中国大陸から長崎に入り、そこから滋賀県の大津市へと伝わってきます。
大津は当時、大商業地であった大阪や京都に近かったこともあり、全国に「大津そろばん」の名を轟かせるようになりました。
大津そろばんは、日本式のそろばんのルーツと言われている存在です。
1580年、羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)が、三木城攻めを行います。
小野市は三木城の近くだったので、小野市に住んでいた住民の中には、大津へと戦火を逃れる人たちがいました。
避難中に大津でそろばんの製作技術を学んだ住民たちは、地元・小野市に戻った後、そろばんの製造を本格的に行うようになります。
これが、播州そろばんの起源であると言われています。
江戸時代になり、庶民の子どもたちに読み、書き、そろばんを教える寺子屋が次々と開かれるようになりました。
寺子屋の全国的な広まりと共に、商業が盛んであった地域では、特にそろばんが人気を博します。
その証拠に、幕末期には、そろばんの問屋が8軒、その下請けが200軒以上もあったと伝わっています。
日清戦争後、水車の動力を活用して珠の生産を行う機械が発明され、一気に量産が可能になりました。
第二次世界大戦後、経済発展と連動するようにそろばんの需要も拡大し続けます。
最盛期だった1960年は、360万丁の生産が行われました。
計算機が普及したことで需要は減少していますが、現在も年間50万丁を超えるそろばんが生産されています。
【播州そろばんの製作工程】
播州そろばんは完成までに100超の工程がありますが、分業制が取られています。
「球削り職人」「組み立て職人」など、卓越した技能を持つ職人たちが、ひとつずつ丁寧に作り上げています。
①枠材作り
そろばんの枠の材料として使われるのは、コクタン(黒色の木)や積層強化剤です。
必要な部位に合わせて、木を少しずつ小さな形に切断・加工していきます。
②珠作り
珠の材料となるのは、主にオノオレカンバです。
その名の通り、斧が折れるほどに材が硬いカバノキとして命名されました。
高級そろばんを製造する際は、コクタンの他に、ツゲやシタンなどの木材を使用します。
使用する木材が決まったら、しっかり乾燥させた後に「球削り」を行います。
木材を輪切りにし、丸い形に打ち抜いた後、そろばんの珠の形になるように徐々に削っていく工程です。
その他、細長い丸い棒を切断し、珠に加工していく方法もあります。
③軸作り
軸(ひご)とは、そろばんの珠を通す軸のことです。
主に材料となるのはマダケで、高級そろばんの場合は「すす竹」を用います。
そろばんの大きさに合わせて竹を切断し、丸くなるように加工・磨き作業を行います。
先述の通り、播州そろばんは分業制を取っているので、そろばんの完成品に必要な枠、珠、軸は、別々に製造されます。
④枠加工
最初の工程で作った枠板に、穴を開けていく工程です。
まず、枠板の全ての表面を、カンナを用いて滑らかになるように削っていきます。
その後、軸や裏棒を入れるための穴、裏板をはめるための溝を開けます。
裏板を作成したら、上下枠の間に入れる「はり」に、竹で作った軸を通すための穴を開けます。
また、溝を彫ったらセルロイドを埋めていきます。
前工程で作成した竹軸を切って軸を準備したら、最後に枠を組み合わせるために「ほぞ」を作っておきます。
なお、実際に組み立て作業に入る前に行うのが、仮組みです。
仮組みを行うと、調整が必要な箇所の有無を見極めることができます。
後工程を円滑に進めるため、重要な作業です。
⑤軸の差し込みと珠入れ
はりに軸を差し込んだら、珠入れを行います。
⑥組み立て
「下枠 → 右枠 → 裏板 → 裏棒」の順番で、組み立てていく工程です。
⑦目竹どめ、裏棒どめ、すみどめの穴あけ
上下の枠に、「目竹どめ」「裏棒どめ」「すみどめ」の穴を開けます。
その穴に金属の針金を刺したら、ちょうどいい長さにハサミで切ります。
この工程を経ることで、「裏棒」「軸」「左右の枠」がきっちり押さえられるので、丈夫なそろばん作りに必要な工程です。
⑧磨き
最後に、枠を丁寧に擦り磨きしていきます。
用いるのは、紙ヤスリ、ムクノキの葉などです。
また、余分な針金を切断し、ヤスリ掛けも行います。
美しいツヤが出るまで磨き終えたら、播州そろばんの完成です。