【伝統的工芸品のご紹介】~奈良墨(奈良県)~
2023.01.25 リリース
【名称】
奈良墨
【奈良墨の産地】
奈良県奈良市
【奈良墨とは?】
奈良県奈良市で製作されている墨。
日本国内で使用されている固形の墨は、90%以上が奈良で生産されています。
墨には、下記2つの種類があります。
・松煙墨
松の木や皮を燃やして出たススを取り、にかわ、水、香料などと混ぜ合わせて作られた墨。
・油煙墨
油を燃やしてススを取り、にかわ、水、香料などと混ぜ合わせて作られた墨。
奈良墨は、こちらに該当。
他の墨では機械化している作業もありますが、奈良墨の場合は細やかな技術を必要とするため、古来より変わらずに手作業で作られています。
なお、奈良墨で用いられている成形方法は、以下2つです。
・手にぎり成型
墨を握って、指の形を付けたら乾燥させる方法。
握り方によって変化する、指の跡が特徴的。
・型入れ成型
木型やへちま皮などに入れて、乾燥させる方法
2018年11月、伝統的工芸品に指定されました。
(1980年10月に指定された鈴鹿墨に次いで、墨では2番目の指定)
【奈良墨の特徴】
奈良墨の特徴は、大きく3つあります。
・製作方法
奈良墨は、完成までに繊細な作業が続くことから、機械化できる工程がありません。
古来と変わらない方法で、熟達した職人たちによる手作業で作られています。
・墨色
奈良墨には、不純物や混合物がほとんど含まれていません。
成分の粒子が均一なので、美しい墨色です。
また、種類や混ぜる水の量によって、さまざまな色合いが出ます。
例えば、水をあまり混ぜずに墨が濃い状態にすると、光沢があり美しく、深みのある墨色になります。
・書き心地の良さ
成分の粒子が細かく均一なので、筆を走らせる時の書き心地の良さも抜群です。
特に、細い字を多く書く写経などでは、筆の進みの良さを実感できるでしょう。
【奈良墨の歴史】
遣唐使として唐に渡った空海が、806年に帰国した際、墨の製法を筆と共に持ち帰りました。
その後、興福寺二諦坊で墨作りを始めたのが、奈良墨の起源であると言われています。
時代の移り変わりによって、墨の製造が行われる地域が減っていきます。
しかし、奈良では、寺社を中心に作り続けられたのです。
特に、奈良墨の起源と言われている興福寺では、経典の製作や写経に使用する墨の製造を引き受けていました。
興福寺では、専門の職人たちを抱え、相当な量の墨を製造していたと考えられています。
奈良墨の名が広く知られるようになったのは、安土桃山時代です。
それまでの墨作りは、「寺社からの依頼 → 職人による製造・納品」という流れでした。
その後、織田信長の政策により寺社の権力が衰退し、墨作りの職人が自分たちで商売を行う形に変化します。
1500年代後半に、奈良にある「古梅園」の始祖・松井道珍が、墨の製造を事業として確立させたのです。
時代の流れによって、墨産業が停滞してしまう時期もありました。
しかし、古代からの伝統的な技法は、次の世代へと継承され続けています。
【奈良墨の製作工程】
①にかわの溶解
にかわと水を入れた容器を沸騰させたお湯の中に入れ、湯煎しながら溶かしていく工程です。
②練り合わせ
溶けたにかわ、スス、香料をかくはん機に入れて、まずは粗めに練ります。
モチくらいの硬さになったら、手もみ・足練りの順番でツヤが出てくるまで練り上げていきます。
腕や手などが真っ黒になってしまいますが、職人たちは黙々と練り続けます。
この工程を丁寧に行うことで、質の高い固形墨になり、書き心地の良さへと繋がるのです。
③型入れ
練り上げた墨のかたまりをサイズごとにちぎり、さらに練り込んでいきます。
その後、木型に入れたら圧縮し、成型する工程です。
④乾燥
木灰をまいた紙の上に木型から外した墨を並べ、その上に紙を敷いたら、さらに木灰をかけていきます。
表面は乾燥によってヒビ割れする恐れがあるので、細心の注意を払いながら、1~3週間ほどかけて墨全体を乾燥させます。
墨が全体的に硬くなったら、ワラで覆って天井からつるし、1~3ヶ月間さらに乾燥させたら完了です。
⑤水洗い・磨き
乾燥後、墨の表面に付いてしまった木灰やワラを水洗いで取りのぞき、上薬を塗ります。
墨の表面を仕上げる方法は、以下2つの方法があります。
・ツヤを消す「生地仕上げ」
・ハマグリの貝殻で磨き上げてツヤを出す「光沢仕上げ」
⑥再乾燥
乾燥室に墨を「井の字の形」に並べて積み上げたら、再度1ヶ月ほど乾燥させます。
⑦仕上げ
文字や絵柄に色を付けたら、箱詰め&包装して完成です。