【伝統的工芸品のご紹介】~赤間硯(山口県)~
2023.01.26 リリース
【名称】
赤間硯
【赤間硯の産地】
山口県下関市、宇部市
【赤間硯とは?】
山口県下関市、宇部市などで製作されている硯。
名前の由来は、赤間関(現在の下関市)で作られ始めたからです。
原材料となるのは、山口県山陽小野田市や宇部市で採れる「赤間石」です。
赤間硯で墨をすると粒子が細かくなるので、発色の良さだけではなく、書いた時の伸びも良い墨汁になると高い評価を得ています。
また、芸術的な面もあわせ持っており、美術工芸品としても人気です。
1976年12月、伝統的工芸品に指定されました。
【赤間硯の特徴】
大きな特徴は、赤間石です。
・成分
墨をする際におろし金のような役割となる石英、鉄分を多く含んでいます。
また、石質が硬くてきめ細やかで、粘りがあるので細工がしやすく、硯石として最適です。
伝統的な形である「野面硯」、繊細な彫刻が施されている「彫刻硯」、蓋が付いている「蓋付硯」など、さまざまな種類があります。
・採石方法
職人自らが坑内に入って、採石を行っています。
赤間石が乾燥しやすいので、地表から順に掘っていく露天掘りが適さないからです。
採石を行うために、火薬に関する専門知識、取り扱うための技術が必要です。
また、硯に合う石を見定める目も養わなければいけないので、採石を任せられるようになるまでに10年以上要することも珍しくありません。
【赤間硯の歴史】
赤間硯には、800年以上も製作され続けている歴史があります。
1191年に源頼朝が鶴岡八幡宮に奉納したと言われている、金蒔絵物の硯箱に収められている硯が現存しているからです。
江戸時代になり、それまで自由にできていた赤間石の採石に、長州藩の許可が必要になってしまいます。
希少価値の高いものになったので、参勤交代の献上品などとして扱われていました。
明治時代に入り、文字を書く手段として筆が主流になると、赤間硯の生産も最盛期を迎えます。
当時、職人の数は200~300名ほどであったと伝えられています。
文房具やパソコンなどの発達によって、墨で文字を書く機会が大幅に減りました。
しかし、今現在も古来より伝わる伝統的な技術は、次の世代へと脈々と受け継がれています。
【赤間硯の製作工程】
①採石
赤間石は、10mほどの厚い層があります。
しかし、その中で赤間硯として活用できるのは、1mほどしかない石だけの部分です。
職人たちは、硯に適した層を見極めて採石します。
色や硬さが異なる、下記5種類の石があります。
・紫雲石
赤紫色を帯びた茶褐色の石
・紫玉石
丸い目のような紋様がある石
・紫青石
青っぽい色をした石
・紫石
紫色を石全体に帯びている石
・紫金石
赤や青の縞模様があり、濡らすとその美しさが際立つ石。
殿様用に使われていたという言い伝えがある。
赤間石は乾燥に弱いので、採石後、適した湿度に保たれた暗所で保管しておきます。
製作する硯のサイズに合わせて、ハンマーなどを用いて板状の形にしていきます。
②縁立て
「硯のおおよその形状」「陸と海の位置」を決め、境目を3mmほどの深さに彫って、縁をたてる作業を「縁立て」と言います。
なお、「陸」とは墨をするところ、「海」は墨液をためる部分のことです。
縁立ての手順は、下記になります。
・板状にしてある石を丸ノコで切断し、硯の大きさに型取る。
・金属や岩石を加工する工具であるタガネを用いて、全体の形を整えていく。
・硯の表裏両面が平らになるように、ノミで削っていく。
・水や砂利を研磨剤にして、表面が滑らかになるように削る「じぎり」を行う。
・縁立てを行う。
③粗削り
陸と海の部分をノミで粗削りし、硯の内側部分を形作ります。
ノミは大きなものを使い、柄の部分は職人の肩に押し当て、力をかけながら削っていきます。
④仕上げ彫り
彫刻硯や蓋付硯を製作する場合、表面に精巧な彫刻を施します。
彫刻の細かさによっては、彫りが完成するまでに数十日かかることもあります。
なお、主な彫刻技法は、以下の通りです。
・浮かし彫り
硯の表面に、絵や模様が浮き上がるように彫る技法
・毛彫り
毛のようなきめ細かい線を出すように彫る技法
・たたき彫り
タガネで叩き刻みながら彫り、石の持つ自然な風合いを出す技法
次に、10種類近くのノミを駆使しながら、内彫りを行ったら完了です。
なお、陸と海の境目を「ハト」と呼びます。
ハトの曲線を美しく彫ることが、一番難しい作業であると言われています。
⑤磨き
ノミで削った跡を消すために、磨いていく工程です。
まずは荒めの砥石で滑らかにし、その後、サンドペーパーを用いて細かい箇所まで仕上げていきます。
しかし、磨きすぎは、墨のすりやすさに影響してしまいます。
最後は、目立て石を用いて磨くようにします。
風化を予防するため、陸と海以外の部分に漆を均一に塗ったら完成です。