【伝統的工芸品のご紹介】~川連漆器(秋田県)~
2023.03.1 伝統工芸品について
【名称】
川連漆器
【川連漆器の産地】
秋田県湯沢市川連町
【川連漆器とは?】
秋田県湯沢市川連町で製作されている漆器。
お椀やお盆、重箱など、普段の生活でよく用いられる漆器として、広く人々に親しまれてきました。
工程ごとに専門の職人がおり、分業制を取っています。
完成までにかかる工程数も多いので、完成までに1年かかることも珍しくありません。
現在、生産されている商品の約60%はお椀です。
これまで受け継がれてきた伝統を守りつつも、手鏡やアクセサリー、フロアライトなど新しい商品開発にも積極的に取り組んでいます。
1976年12月、伝統的工芸品に指定されました。
【川連漆器の特徴】
特徴は、リーズナブルでありながら非常に頑丈であることです。
頑丈である理由は、木地を丈夫にするために重要な工程である「下地」にあります。
以下の作業を繰り返し行うことが秘訣です。
・地炭つけ
渋柿の実をしぼって取った液体である「柿渋」と「炭粉」を混ぜて作ったものを塗り、乾燥させたら研ぐ作業のこと。
なお、柿渋と炭粉を利用するとコスト低下に繋がるので、リーズナブルに販売することが可能になります。
・柿研ぎ
地炭つけの後、さらに柿渋を塗ってから研いでいく作業のこと。
・地塗り
生漆を塗る作業のこと
仕上げ作業に「花塗り」という技法を用いています。
乾燥させた後、研ぐことなくハケを用いて漆器の表面をなめらかに仕上げていくので、とても熟練した技術が必要です。
磨かなくても光沢があり、やわらかい感じであることも、川連漆器の特徴であると言えるでしょう。
【川連漆器の歴史】
川連漆器の歴史が始まったのは、800年ほど前の鎌倉時代です。
源頼朝の家人・小野寺道矩が、豊富にあった木材と漆を用いて、弓や鎧といった武具に漆を塗る内職を家臣に行わせたのが始まりであると伝わっています。
川連村は豪雪地帯であり、雪の季節は農業だけでは生活を成り立たせることができませんでした。
そこで内職として、漆塗りが始められたのです。
1600年代の中頃、地場を支える産業として、漆器製作が本格的に行われるようになりました。
当時は、26戸の椀師が漆器の販売を生業としていた記録が残っています。
江戸時代には藩の政策によって保護され、お椀をはじめとした日常生活に欠かせない品が数多く作られるようになりました。
また、「沈金」や「蒔絵」などの加飾技法も加わったり、販路も全国各地に広がったことで、産業としての地盤を固めていきます。
戦後の不況時にも着実に発展し続け、現在も類まれな技術や伝統は、脈々と受け継がれています。
※沈金
漆を塗った漆器表面に刃物で文様を彫り、そこに金粉などを押し込む技法
※蒔絵
漆器の表面に漆で文様を描き、乾く前に金属粉を蒔く技法
【川連漆器の製作工程】
①原木
素材として用いられるのは、作るものによって異なります。
お椀などの丸物に使われるのは、ブナ、トチノキ。
重箱などの角物、お盆などの曲物に使われるのは、ヒバ、スギ、ホオノキなどです。
元々、森林資源に恵まれている土地ですが、川連漆器に使用するのは「樹齢が200年以上の木」と決められています。
使用する木材の管理を徹底することで、大切な資源を守っているのです。
②木取り
まず、原木を輪切りにします。
その後、痛みが生じている部分を避けて、製品のおおよそのサイズに合わせて切り出し、ブロック状にする工程です。
③粗挽
製品の形に削っていく工程で、手順は以下になります。
・ろくろにブロック状の木材を取りつける
・木の内側はくり抜いて、外側は大まかに削る
・加工した木材を煮沸する
煮沸を行うことにより、「木のゆがみ防止」と「防虫」の効果を発揮します。
④乾燥
木のゆがみ防止のため、1ヶ月ほど燻製乾燥を行います。
燻製乾燥とは、煙によって水分を均一に抜いて、ねじれなどの原因となるゆがみを緩和する方法です。
なお、木の含水率が10%ほどになるように調整します。
⑤仕上挽
乾燥後、サイズが固まった木地をろくろに取りつけます。
カンナで漆器の表面を挽き、美しくなめらかな状態へと仕上げます。
最後に底の部分を削ったら、お椀の成形が完了です。
⑥地炭つけ・柿研ぎ
先述の「頑丈さ」を生む工程です。
柿渋と炭粉を混ぜて作ったものを藁製のハケで塗り、乾燥させたら研ぎます。
その後、柿渋を塗ってから同様に「乾燥→研ぎ」を行います。
⑦地塗り
馬のしっぽで作られたハケを用いて、すり込むように生漆を塗っていきます。
「柿研ぎ」と「地塗り」は、6回ほど繰り返し行います。
この作業によって、水分が木地へ浸透することを防ぎ、ゆがみがなく頑丈な漆器に仕上げられるのです。
⑧下塗り・中塗り・上塗り・花塗り
完成時の色に近づけるように、下塗りから上塗りへと、漆の色彩を整えながら進めていきます。
「漆を塗って研ぐ」工程を、7回ほど繰り返し行います。
漆は完全に乾かしてから塗り重ねる必要があり、作業環境の気温や湿度によっても漆の性質は変化するので、その時々の状態を的確に判断しなければいけません。
最後の仕上げに「花塗り」という、漆を塗った後、研がずに乾燥させる技法を用います。
「ハケ目が残らないように塗らなければいけない」「塗りムラを出してはいけない」ので、高い技術力が必要です。
また、ホコリなども決して付けてはいけないので、丁寧かつ慎重に行わなければいけない作業です。
製作するものによって、先述した「沈金」や「蒔絵」などの加飾技法を施します。