【伝統的工芸品のご紹介】~秀衡塗(岩手県)~
2023.03.8 伝統工芸品について
【名称】
秀衡塗
【秀衡塗の産地】
岩手県平泉町
【秀衡塗とは?】
岩手県平泉町・その周辺地域で製作されている漆器。
1985年5月、伝統的工芸品に指定されました。
【秀衡塗の特徴】
最大の特徴は、漆器では珍しいきらびやかな模様です。
金箔などをあしらっていますが、代表的な文様は以下になります。
・源氏雲
最もよく描かれる文様で、源氏絵によく見られることから名前がついている
・有職文様
平安時代以降、公家の服装や調度品の装飾などに用いられた伝統的な文様
漆で文様を描いた後、漆が乾く前に金粉を蒔いて装飾する「蒔絵」という技法もあります。
金を使うという共通点はありますが、秀衡塗には、大胆さの中に残る繊細さを感じることができます。
また、漆の持つ本来の美しさや艶感を活かし、光沢が抑えてある外見も特徴のひとつと言えるでしょう。
鮮やかさと素朴さを兼ね備えているのが秀衡塗です。
【秀衡塗の歴史】
秀衡塗は名前の通り、藤原秀衡と深いつながりがあります。
秀衡は、奥州全域を支配していた奥州藤原氏3代目の当主で、最盛期を支えていた武将として有名です。
彼が京都から漆器職人を呼び、地元・平泉に豊富にあった「漆」と「金」を使った漆器を作るように命じたことが始まりであると言われています。
実際、発掘作業によって、漆器製作に使われていたと考えられる工房跡が発見されました。
こうした背景から、「秀衡塗と藤原氏は縁がある」という説が有力となっています。
現在の秀衡塗が築き上げられたのは、1500年代であると言われています。
秀衡が存命していたのは1100年代なので、当時の製法や見た目とは異なっているかもしれません。
しかし、今でも職人たちの手作業によって作られていますし、その伝統は確実に受け継がれ続けています。
【秀衡塗の製作工程】
①漆掻き
「漆掻き」とは漆の木から樹液を採取することで、毎年6〜10月に行われます。
特に、夏に採取される漆は「盛辺漆」と呼ばれ、とても品質が良いと言われています。
採取する方法は、カンナと呼ばれる刃物で木の幹に傷をつけます。
その後、しばらくすると傷跡から漆が流れ出てくるので、ヘラを用いて掻き取るのです。
一般的に、漆の木一本から約150〜200グラムほどの漆が採れると言われています。
決して多くない量を数日間かけて採取していく、忍耐力を必要とする作業です。
②玉切り・型打ち
秀衡塗の素材となる木は、ブナ、トチ、ケヤキなどです。
切ったばかりの木には水分が多く含まれているため、乾燥させなければいけません。
しっかり乾燥させることで、木が割れてしまうことを防ぎます。
大きな木のままだと中までしっかり乾燥させるのが難しくなってしまうため、お椀の形に木を削り出します。
木の厚さや丸みなどを確認し、使いやすさを考慮しつつ削り出していくのがコツです。
早ければ1年ほどで製作に取り掛かれます。
しかし、長いものでは10年間乾燥させた後、ようやく使用できるようになることも珍しくありません。
③木地挽き
粗く削り出されている木地の表面を、滑らかに整えていく工程です。
ろくろを回しながらサンドペーパーで研ぐことで、木地全体を均等に磨けますし、表面をより滑らかに仕上げることができます。
④木地固め
形を整えた木地全体に、生漆を塗っていく工程です。
生漆を塗ることの効果は、以下になります。
・木地に水分を含ませることで、変形を防ぐ
・漆によって木地の表面がコーティングし、水気を防ぐ
・木が伸縮したり、ひびが生じることを防ぐ
質の良い秀衡塗を製作するため、欠かすことのできない大切な作業です。
⑤布着せ・下地塗り
「布着せ」とは、壊れやすい箇所に麻や木綿などを着せて補強する作業のことです。
その後、布着せした部分が目立たないように、布の織り目に細かいさびの粉や生漆を塗り重ねます。
最後にさび止めを塗って、下地を完成させます。
⑥塗り
塗りは「下塗り」「中塗り」「上塗り」の3つに分けて、漆器に色付けを行っていく工程です。
漆を塗る度に、漆風呂に入れて乾燥させます。
最後に行われる上塗り時は、ホコリなどの汚れが付くことが許されないので、非常に神経を使う作業です。
※漆の乾燥には湿度が必要なので、適した環境を作っているのが「漆風呂」
⑦加飾
先述の「源氏雲」や「有職文様」といったデザインを施していく工程です。
一般的には、和紙に描かれた文様を転写していきます。
加飾が終わったら、秀衡塗の完成です。