【伝統的工芸品のご紹介】~堺打刃物(大阪府)~
2022.12.22 伝統工芸品について
【名称】
堺打刃物(さかいうちはもの)
【堺打刃物の産地】
大阪府堺市、大阪市など
【堺打刃物とは?】
大阪府堺市、大阪市などを中心とした地域で製作されている刃物。
「地金(加工しやすい金属)」と「刃金(刃物の刃先に用いる金属)」という異なる2つの材料を使って製作することで、頑丈さだけではなく切れ味の鋭さも両立させています。
1982年3月、伝統的工芸品に指定されました。
【堺打刃物の特徴】
特徴として挙げられるのは、主に2つあります。
①刃先の切れ味
刃先の抜群の切れ味は、卓越した技能を持った職人たちによる「鍛造(かじ)」と「研ぎ」の技術の賜物であると言えるでしょう。
昨今の包丁製作で増えてきているのは、鉄板をくり抜いたら刃の部分を削って包丁にしていく方法です。
一方、堺打刃物は、接着させた2種類の金属を打ちながら形に仕上げていく点が大きく異なります。
長年培われた技術によって鍛えられた刃物は、硬度が高く頑丈で、鋭い切れ味が長期間保たれます。
②製作工程の分業制
刃物が完成するまでに、大きく「鍛冶」「研ぎ」「柄付け」という3つの工程が行われます。
各工程に専門の職人がおり、それぞれが熟練の技によって作業を行うことで、高品質な堺打刃物を作ることが可能になるのです。
素材や料理の種類に応じて使いやすいように、堺打刃物の形状は多岐にわたっています。
ここまでお伝えしてきた内容から、堺打刃物が板前やシェフたちから高い支持を得ている理由がわかるのではないでしょうか。
【堺打刃物の歴史】
堺打刃物を作る技術の元となったと言われているのが、古墳を造るときに用いられた「鍬(くわ)」や「鋤(すき)」といった工具たちです。
堺市には、仁徳天皇陵(日本一の大きさを誇る前方後円墳)をはじめとして、古墳時代に造られたと考えられている古墳が数多く存在しています。
古墳を造るために土木工事が頻繁に行われましたが、その時に活躍したのが工具です。
大量の工具を製造するために職人たちが堺に定住するようになり、工具だけではなく刀などの製作技術が進化していったのではないかと想定されています。
1543年、日本(種子島)に鉄砲が伝来し、瞬く間に日本中に鉄砲が広まることになりました。
高度な金属加工の技術を持つ職人たちが多くいた堺で、鉄砲の生産がスタートします。
戦国時代後半に火縄銃(鉄砲)が戦の新兵器として活躍し始め、堺は主要な製造地域のひとつとして大切な役割を担いました。
堺は海に面していて火薬の原料などを輸入しやすかったこともあり、江戸時代になるまでに10万丁もの鉄砲を製造したと伝わっています。
江戸時代になると鉄砲のニーズは減少しましたが、代わりにタバコが流行り始めます。
そして、タバコの葉を刻むために「タバコ包丁」の需要が高まりました。
堺に住む職人たちが作ったタバコ包丁が高品質だったので評判を呼び、幕府は「堺極」という極印を入れ、幕府専売品として全国に販売を始めます。
こうして徳川幕府に認められたことで、堺の包丁の名は、全国にとどろくようになったのです。
近代化によってタバコの生産は機械化されてしまい、タバコ包丁の需要は大きく低下してしまいます。
しかし、職人たちは長年受け継がれてきた技術を活かして、料理時に使用する包丁などの制作を始めました。
頑丈で切れ味の良い堺打刃物は、板前やシェフから高い評価を得て、現在も数多の人々に使われ続けています。
【堺打刃物の製作工程】
①刃金付け
以下の手順を踏んで、刃物の材料となる鉄板を作ります。
・地金を赤く熱し、ほう酸や酸化鉄などの粉末を付けた刃金と重ね合わせる。
・およそ900℃の温度にした炉の中に入れ、柔らかくする。
・ハンマーで叩きながら、2つの金属を接着させていく。
②整形
以下の作業を順に行っていきます。
・再び炉の中に鉄板を入れて、600~700℃になるまで加熱する。
・鉄板をハンマーで叩き、全体的に薄く伸ばしていく。
・叩くことで2つの金属をなじませつつ、包丁の形に整える。
・不要な箇所は切り落とし、柄に差し込む部分も形作る。
③なまし
整形が完了したら、包丁をワラの中に置いて、自然な形で徐々に冷ましていきます。
この工程を経ることで、包丁内部のひずみを取り除くことができます。
④荒たたき
「荒たたき」とは、常温に戻った包丁の表面をハンマーで叩いていく作業です。
主に3つの効果があります。
・これまでの工程でできた凸凹や穴を、平らにすることができる。
・不要な成分が叩き出されるので、包丁が鍛えられる。
・包丁の厚さを均一にし、ゆがみなどをなくしていく。
⑤裁ちまわし
これから作っていく包丁の型に合わせて、不要な部分を裁ち落としていきます。
⑥すり回し
・裁ちまわしで出てきたゆがみやねじれの調整、不要箇所の削り落としなどを行う。
・グラインダー(研磨や削り作業が可能な機械)を使って、全体を仕上げていく。
・包丁の裏側に刻印を打つ。
⑦泥塗り
・包丁についている汚れや油分を取り除いたら、泥を塗る。
・塗り終わったら、炉の余熱を使って乾燥させる。
泥を塗るのは、以下2つの効果を狙っているからです。
・焼きムラを抑えることができる。
・焼き入れ後、短時間で均一に冷やせるようになる。
⑧焼き入れ・焼き戻し
「焼き入れ」とは、750~800℃の温度で加熱した後、水に入れて一気に冷却する作業のことです。
急激に冷ますと刃金の成分が変化し、硬度を高めることができます。
次に行う「焼き戻し」とは、焼き入れが終わった刃金を180~200℃に再び過熱した後に、自然に冷ましていく作業です。
この「焼き入れ」「焼き戻し」を行うことによって、刃金に粘りが出てくるとともに、刃が欠けづらくなります。
どちらの作業も決まった範囲の温度で行いますが、温度計を使っているわけではありません。
職人が包丁に水をたらし、その水滴の流れ具合によって温度を見極めています。
これには経験や技術など、職人の優れた技量が必要な作業です。
⑨刃付け・研ぎ
「荒研ぎ → 本研ぎ → 裏研ぎ → ぼかし → 仕上げ」の順番で行っていきます。
・荒研ぎ
刃の角度を決めるため、名前の通り、刃部分を荒く研いでいく。
包丁にゆがみが出ていないか、頻繁に確認しながら行う。
・本研ぎ
荒研ぎで生じてしまった傷やゆがみなどを丁寧に磨きつつ、刃の厚さも調整していく。
・裏研ぎ
砥石の目を少しずつ細かくしていきながら、刃の裏側を研ぐ作業。
ここまでの作業同様、傷やゆがみが生じていないか確認しながら行っていく。
・ぼかし
砥石の粉を練って泥状にしたもので、刃をこする作業。
地金の部分がくもる一方、刃金部分はツヤが出て輝くようになる。
その結果、刃紋(2つの金属の境目)がはっきり浮き出て、見た目も美しく変わる。
・仕上げ
目がとても細かい砥石で包丁の刃を丁寧に研ぎ、切れ味の鋭い包丁に仕上げていく。