【伝統的工芸品のご紹介】~二風谷アットゥㇱ(北海道)~
2022.12.1 伝統工芸品について
【名称】
二風谷アットゥㇱ(にぶたにアットゥㇱ)
【二風谷アットゥㇱの産地】
北海道沙流郡平取町
【二風谷アットゥㇱとは?】
北海道沙流郡平取町で作られている、樹皮の繊維で作られた織物のこと。
平取町のシンボルでもある沙流川に育つ「オヒョウ」「シナノキ」が原料。
オヒョウの内皮から繊維を取り出し、糸を紡いでから織機(アットゥㇱカㇻペ)を用いて織られています。
主に着物や半纏(はんてん)、前掛け、帯などの小物類として使われることが多いです。
2013年3月、二風谷イタと一緒に伝統的工芸品に指定されました。
なお、二風谷という地名は、アイヌ語の「ニプタイ(木の生い茂る場所という意味)」から名付けられています。
自然やアイヌ文化を大切にしている人々が、昔からの伝統を受け継ぎ、現在も工芸品を作り続けています。
【二風谷アットゥㇱの特徴】
二風谷アットゥㇱの特徴は、大きく4つあります。
・通気性に優れている
・水に強い
・天然繊維なのにとても丈夫
・独特の風合い
また、100年以上前から現在まで、製作に使用している道具や工法がほぼ変わっていません。
丈夫な特徴を活かして、元は衣服を作るための織物でした。
しかし、アイヌ民族以外との交易を行っていく中で、見た目の美しさや機能性が評価され、
現在では伝統的工芸品として認められています。
【二風谷アットゥㇱの歴史】
アイヌの女性たちが、大切な家族に丈夫な衣服を着てもらうために作ってきたのが二風谷アットゥㇱです。
作り方や技術などの伝承は、アイヌ民族は言葉で行ってきました。
現在残っている文字としての記録はアイヌ民族によるものではなく、
アイヌ民族と交易を行ってきた和人によるものです。
和人が残してきた記録によれば、18世紀の終わり頃から
二風谷アットゥㇱの工芸品としての人気が高まってきていたことがわかっています。
また、網走市が保管している資料によれば、
1792年には「反アツシ3枚 手幅付アツシ2枚」と「八升入りの米一俵」が交換されていました。
こうした過去の記録から、北海道の中でも海の幸に恵まれない地域では、
交易時の品とするために工芸品の製作を促していたのではないか…と考えられています。
二風谷アットゥㇱは丈夫で水に強いので、
蝦夷地(北海道)と本州を行き来する船乗りたちの仕事着として重宝されました。
また、歌舞伎の演目(天竺徳兵衛韓噺)で着られたり、日本へ来た外国人が自身の著書で書いていたり、
二風谷アットゥㇱについて数多くの記録が残っています。
昭和30年代、伝統のある民芸品のブームが起きたことがきっかけとなり、二風谷のアットゥㇱは地場産業として発展。
元は女性が製作に携わっていましたが、男性も樹皮の採取などに参加し始めます。
さらに地域として大量生産を可能にするため、各工程の分業化を進めていきました。
【二風谷アットゥㇱの製作工程】
①樹皮の採取
可能な限りの大人数で「オヒョウ」「シナノキ」などの樹皮を剥いでいきます。
樹皮に水分が多く含まれているほど剥ぎやすくなるので、6月頃が良い時期です。
オヒョウの木の場合、枝や節(ふし)が少なくて、直径15~20cm程のものがよく選ばれます。
木を選んだら、立木の根本30~40cmにナタを入れます。
ナタを入れる際は、木質部(木の幹の内部の堅くなっている部分)を傷つけないように気を付けつつ、
樹皮を少し剥いだら持ち上げます。
樹皮を剥ぐ時のポイントは、「なるべく同じ幅で」「長く」剥ぐことです。
細くなりすぎないようにねじりながら、揺さぶりながら剥いでいくことで、
長くて質の良い糸が取れるようになります。
②内皮を取り出す
荒皮を剥いだら、手またはナタを使ってすぐに内皮を取り出します。
これは、乾燥を防ぐためです。
内皮を取り出したら、折りたたんで束ねて持ち帰ります。
③煮る
採取した内皮を伸ばしたら、数日間干して乾燥させます。
乾燥させることで、内皮を年単位で保存しておくことが可能になるのです。
干した内皮は、煮る前に束ねます。
そして沸騰したお湯に内皮を入れたら、あらためて煮立つ直前に木灰を入れます。
木灰を入れるのは、内皮にある何層もの薄い層が柔らかくなり、はがれやすくなるから。
落し蓋をした後は、数時間ごとに上下を入れ替えながら、内皮全体が均一に煮ていきます。
④流水での洗浄・樹皮剥ぎ
煮終わると樹皮のぬめりが出ているので、流水でぬめりを洗い流します。
ぬめりが残っていると丈夫な糸ができなくなってしまうので、しっかり洗浄することが重要です。
繊維の層がはがれてくるので、揉むようにしつつ、なるべく細くなりすぎない幅で
そろえて剥いでいくのがポイントです。
⑤乾燥
屋外に並べ、天日干しで14日ほどの期間をかけて乾燥させます。
日光に当たることで赤茶色が抜けていきますし、雨によって色も均一に広がっていきます。
⑥裂く
乾燥している繊維が剝がしやすくなるように、水に浸して柔らかくしていきます。
その後、内皮を一枚の層になるように剥がしていきますが、可能な限り薄くしていくのがポイントです。
一枚の層にしたら2mm程の幅で裂き、あらためて乾燥させます。
⑦撚りをかける・機結び
両手を使って繊維に軽く撚りをかけたら、機結びをして一本の糸に紡いでいきます。
一玉作るのに、一ヶ月かかることも珍しくありません。
⑧織機にかける
経糸を伸ばすと織る布以上の長さになるため、屋外で作業を行うことが多いです。
風が強いと糸が絡んだり、揃えていた糸の長さがバラバラになってしまうので、
風が吹かない日に織り作業は行われます。
糸をかける作業は、基本2人で行います。
1人は固定した杭と織り機の間を、糸を繰り出しながら往復。
そしてもう1人が、決められた手順で織り機にかけていきます。
かけ終えた経糸は、70~90cm間隔で束ねて縛ります。
ここまでの一連の作業が完成したら、杭を抜き、屋外での作業は完了です。
⑨織る
アイヌ語で「アットゥㇱカㇻペ」と呼ばれている機織り機は、
最も古い方式の手織り機である「腰機(こしばた)」です。
使い方は、以下の通りです。
・経糸の一方を、柱や机の脚などに固定する
・もう一方は、織り機に固定する
・座ったら、腰に当て布をして糸を引っ張りながら織る
布が織り上げってきたら床で巻きながら、体を前進させて織り進めていきます。