【伝統的工芸品のご紹介】~津軽塗(青森県)~
2022.12.2 伝統工芸品について
【名称】
津軽塗(つがるぬり)
【産地】
青森県弘前市周辺
【津軽塗とは?】
青森県弘前市周辺の地域で製作されている漆器のこと。
「津軽塗」と呼ばれるようになったのは、1873年に開催されたウィーン万国博覧会に
出品されたことがきっかけであると言われています。
1975年、伝統的工芸品に指定されました。
とてつもない時間と手間が、職人たちの手によって注ぎ込まれます。
「漆塗り→研ぐ→磨く」の工程を38~48回も繰り返し行うことから、「馬鹿塗」と別の名で呼ばれることも。
一作品を完成させるまで、3~6ヶ月要すことも珍しくありません。
【津軽塗の種類】
現在も伝わっている津軽塗の伝統的な技法として、代表的なものを4つ紹介します。
・唐塗(からぬり)
津軽塗の代表格と言えば、唐塗です。
「唐」は、中国の王朝「唐(とう)」を表しているわけではありません。
「とう」と読み、「優れたもの」という意味があります。
通常のへらではなく、穴の開いたへらを使って、漆の斑点模様を付けていきます。
また、顔料を加えて色を付けた漆(色漆)を重ねていくことで、色彩豊かな紋様を演出しています。
・七々子塗 (ななこぬり)
模様の丸い形が「魚の卵=ななこ」に似ていることから、この名前が付けられました。
まず、ナタネの実をまいて、ドーナツ状の輪(輪紋)を作ります。
その後に色漆を塗りこみ、輪紋を研ぎだすことで、特徴的である小紋のような模様を表現しています。
・紋紗塗(もんしゃぬり)
紋紗塗は、津軽塗にしかない独特の技法です。
全国各地に伝統的工芸品に指定されている漆器がありますが、津軽塗でしか見ることができません。
・模様は、黒漆を使って描く
・もみがらを粉末の炭にしたものを振り散らす
・研ぐ
上記工程を経ることで、ツヤ消しされた黒地の中に、漆黒の模様を浮かび上がらせています。
・錦塗(にしきぬり)
元の地は七々子塗で、そこに唐草や紗綾型の模様を描いていきます。
そうすることで華やかでありながら、風格のある絵柄となります。
4つの技法の中で一番新しい技法です。
高度な技術が必要であり、担い手もわずかしかいません。
【津軽塗の特徴】
津軽塗の主な特徴として挙げられるのは、以下の3つです。
・丈夫である
・実用性が高い
・優雅で華やかな見た目
先述の通り、何十回も「漆塗り→研ぐ→磨く」作業を行います。
この工程を繰り返し行うことにより、何重にも積み重なった色漆の模様が美しく浮かび上がってきますし、
厚みがあり丈夫な漆器になるのです。
【津軽塗の歴史】
津軽塗の製作が始まったのは、今から350年程前。
津軽信政(1646~1710年)が、四代目の弘前藩主を務めていた時代です。
全国の大名に江戸への参勤が命じられるようになったのは、1642年。
この参勤交代によって、地方へも上方・江戸の文化が過去にも増して伝わっていくようになりました。
弘前藩にも塗師が招かれ、津軽塗の創始者である池田源兵衛によって独自の漆器が生み出されたのです。
1758年前後に書かれたと推定されている「津軽見聞記」によれば、当時は既に「唐塗」の技法が誕生していました。
最初のころは腰刀の鞘(さや)を作るためのものだった津軽塗ですが、次第に、手紙を入れる「文箱」、
料理を詰める「重箱」などの調度品が作られるようになっていきます。
その後、朝廷や幕府への献上品として津軽塗が用いられるようになり、弘前藩に手厚く保護され、
さらなる発展を遂げたのです。
時代は進み、1873年のウィーン万国博覧会。
津軽地方で製作された漆器を、青森県は「津軽塗」として出展しました。
これがきっかけで「津軽塗」の名称が世に広く知れ渡り、現在も青森県を代表する工芸品として発展し続けています。
【津軽塗の製作工程】
*材料
・ヒバ → お盆や箱など、金釘を使用せずに組み立てる木工品を作る場合に使用。青森県の「県の木」
・ホオノキ → お椀など、木材をろくろで丸く削って作る場合に使用
①木取り
木材を伐採し、よく乾燥させます。
乾燥後、「木質の堅いところ」「割れのあるもの」「芯」「節」など、部分ごとに切り分け。
最後に、削り出しまで行います。
②布着せ
まず、下地作りを行います。
漆器の強度を決めるのは、この下地作りであると言われています。
なお、津軽塗の製作で使われる技法は、「堅下地」です。
木材の表面を整えるために磨いた後、防水のために木地全体に漆を摺りこんでいきます。
その後、布に糊漆(のりうるし)を塗り、木地表面に巻きつけるようにしっかりと密着させながら貼ります。
布着せを行うのは、木地の割れなどを防ぐことが目的です。
③地付け
地付けとは、全面に漆などを塗りつけていくことです。
最も荒い地漆から始めて、少しずつ細かい漆へと変化させていきます。
なお、「地漆」とは、「山科地の粉」「生漆」「糊漆」を練り合わせてつくったものです。
地付けは、以下の手順で行います。
・地漆をヘラで均一に塗る
・乾燥させる
・表面を研いでいく
・より細かい錆漆、切粉を塗って、研ぐ
※錆漆 → 「生漆」と「砥の粉(=細かい土)」を混ぜて作ったもの
※ここまでの工程では、水を付けずに研いでいく
④仕掛け
仕掛ベラを使い、仕掛漆で下地全面に斑点模様を付けていく作業です。
模様を付けた後、5日ほどかけて漆を完全に乾燥させます。
※仕掛漆 → 「素黒目漆(黒く精製した漆のこと)」「顔料」「卵白」を練り合わせてつくったもの
⑤塗掛け
刷毛(はけ)を使って、色漆を塗ります。
仕掛漆は黒いので、対比効果を狙って黄色などの色漆を使い、模様がキレイに際立つように塗っていきます。
⑥彩色
唐塗であれば、朱色と緑の色漆が使われることが多いです。
色漆を散らして市松状などに模様を描くことで、彩りや華やかさを演出します。
落ち着いた色調にしたい場合は、素黒目漆をあらためて上から重ね塗りしていきます。
⑦妻塗り
素黒目漆を薄く全体に塗ったら、錫の粉を蒔き付けます。
この妻塗りの作業で塗った漆が、地色と模様の境界を縁取っていくので、模様がさらに引き立つ効果があります。
⑧上げ塗り
仕上げの漆を、刷毛を使って厚めに塗っていく工程です。
赤漆を使えば「赤仕上げ」、素黒目漆を使えば「黒仕上げ」などと呼ばれます。
⑨研ぎ
まず、大まかに研いで表面の凹凸を取っていきます。
その後、研いで出てきた面を乾かすため、漆風呂に入れてしっかり乾燥させます。
乾燥後、模様を削り出します。
凹んだ部分があれば漆を塗り、そして研いで、また漆を塗る。
この作業を、とにかく何度も繰り返し行います。
※漆風呂 → 漆の性質を考えて、湿度と温度を適切に保つために作られた設備
⑩胴摺り
研ぎ後を残さないように、「油砥の粉」で何度も磨き上げていきます。
磨きが完了したら、拭いて油分を取り除きます。
※油砥の粉 → 「菜種油」と「砥の粉」を練って作ったもの
⑪呂塗り
磨き用である呂色漆を塗って、仕上げる工程です。
呂色漆を付けた炭で少しずつ研いでは拭うことを繰り返し行い、ツヤを出せたら完成です。