【伝統的工芸品のご紹介】~岩谷堂箪笥(岩手県)~
2023.02.1 伝統工芸品について
【名称】
岩谷堂箪笥
【岩谷堂箪笥の産地】
岩手県奥州市、盛岡市
【岩谷堂箪笥とは?】
岩手県奥州市や盛岡市で製作されている木製の箪笥。
種類が豊富で、衣装箪笥や茶箪笥(茶器や食器を収納する)だけではなく、本棚、机なども製作されています。
過去には、下記のような箪笥も作られていました。
・階段箪笥
階段下のスペースを有効活用するため、引き出しなどを取りつけた箪笥
・車箪笥
火災などの緊急時に貴重品をもちだせるように、車輪を付けた箪笥。
江戸時代は火事が多かったので、押して逃げていた。
岩谷堂箪笥は一生ものと言われており、海外から注文が入るほど人気も高いです。
1982年3月、伝統的工芸品に指定されました。
【岩谷堂箪笥の特徴】
大きな特徴は、飾り金具です。
絵や模様が浮き上がるように彫られており、格調高い雰囲気を醸し出します。
「手打ち彫り」「南部鉄器金具」の2種類があり、ひとつの箪笥に多いときは100個の金具が施されることもあります。
また、漆塗りも施されており、「拭き漆塗り」と「木地蝋塗り」の2種類があります。
どちらも「塗って磨く」を何度も繰り返し行う技法です。
重厚な見た目はもちろん、使い込むほどに味わい深さが生まれてくる製品です。
【岩谷堂箪笥の歴史】
およそ1,000年前、奥州藤原氏・初代当主である藤原清衡が、地域を支える産業として重きを置いたのが起源であると言われています。
当時は、衣服や調度品を入れておくための長方形の箱である「長持」など、大きめの家具を主に製作していたそうです。
1781~1789年に、当時の岩谷堂城主・岩城村将が、木工品の製造・販売に尽力します。
これは、米の生産だけに頼っていた藩の財政を改革したかったからです。
現在も製作され続けている箪笥の製作技術、塗装方法などの研究に励み、先述の階段箪笥や車箪笥も開発されました。
1820年代になり、金具の飾り付けが考え出され、現在の形が出来上がります。
明治時代には、箪笥が一般家庭にも広がり始めます。
また、漆塗りと金具装飾を施した豪華な見た目もあり、人気を博していきました。
第二次世界大戦後の1950年代、需要が減少するなどの危機もありましたが、その伝統は現在も次の世代へと受け継がれています。
【岩谷堂箪笥の製作工程】
下記工程は、すべて職人の手作業によって行われています。
①木取り
材料として用いられるのは、ケヤキ、クリ、キリ、スギなどです。
ケヤキは木目が美しく現れやすいので、特に使用されることが多いです。
北上山系はケヤキが豊富なので、その中から樹齢300年以上の樹木を見定めて使用します。
材料として使用できるまでには、下記の工程を順に行っていく必要があります。
・原木を切断後、数年間寝かせる
・必要な寸法に切削、加工などした後、屋外に積んで自然乾燥させる
これらの作業を数年間かけて行うのは、木材の反り・ねじれといった変形、割れなどを防ぐためです。
最後、無駄を最小限にするために「木取り」を行ったら完了です。
なお、箪笥の内部はキリの天然無垢材を使用します。
キリには、防虫や防湿の効果があるので、衣服を安心して入れることができます。
②組み立て
木地加工を行った後、ノコギリやノミなどの道具を用いながら、職人の手によって本体を組み立てていきます。
最後に、カンナによって製品の表面を滑らかにします。
③前仕上げ
ここまでの工程で本体の組み立ては完了しているので、引き出しを下記の手順で製作します。
・木と木を組み合わせる継ぎ手の部分(組手)の加工を行う
・表面をカンナで滑らかにする
・引き出しの外枠を組み立てる
・底板を取りつける
・本体と引き出しがキレイにはまるように、カンナで削る
④漆塗り
箪笥本体の表面に漆を塗る工程です。
漆を塗ることで、「ツヤを出すことで美しく格調高くなる」「耐久性を高める」といった効果があります。
漆塗りには、2種類あります。
拭き漆
生漆という透けた漆を、イタヤモミジで作られたヘラで塗ったら磨くという作業を繰り返し行い、木目の美しさを際立たせていく方法
木地蝋塗り
下記手順で行います。
・木目が出るように磨く
・漆と砥の粉を混ぜたものを塗る(下塗り)
・乾燥後、下塗りの漆を砥石で研ぎ落す
・「漆を塗る → 研ぐ」を複数繰り返す(中塗り)
・木地蝋漆を塗ったら磨く(上塗り)
・「摺り漆を塗る → 研ぐ」を数回繰り返す
・仕上げに磨いてツヤを出す
⑤金具の製作(下絵付け)
飾り金具は、下記2種類があります。
・手打ち彫り
塗装された鉄板あるいは銅板に、下絵を描いて貼ります。
その後、板の裏にタガネを当てたら、カナヅチで叩いてデザインを刻んでいきます。
下絵に描かれることが多い「龍」「唐草模様」「唐獅子」は、長きに渡って大切に受け継がれてきました。
・南部鉄器金具
南部鉄器は、1975年2月に伝統的工芸品に指定されています。
南部鉄器金具は、この南部鉄器の持つ鋳造技術を用いて製作されます。
鋳型に溶かした鉄を入れ、冷え固まった後に仕上げていく工程で行われます。
⑥金具の製作(彫金)
下絵を貼った板の表面にタガネを当てたら、カナヅチで叩いて図柄を刻んでいきます。
下絵に描かれることが多い「龍」「唐草模様」「唐獅子」は、長きに渡って大切に受け継がれてきました。
⑦金具の製作(打ち出し)
次に板の裏からタガネを当て、カナヅチで叩いていきます。
この作業を行うことで、立体的な図柄を表現することが可能です。
金具を切り抜いたらヤスリをかけ、最後にサビ止め、色上げを行って仕上げます。
⑧金具の取りつけ
箪笥本体に、ここまで製作してきた金具などを取り付けたら完成です。